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2026年7月11日(土)

 田野ユタカ LIVE '26 文月 LIVEレポート

於:六本木「BIRDLAND」

by まゆみん



  OA

     1.かげぼうし
           作詞作曲 まつむらあきひろ

2.窓辺の花              作詞作曲 まつむらあきひろ


  一部

     1.Tokyo City Lights
       作詞作曲 田野ユタカ

2.Kの夏                 作詞作曲 田野ユタカ

3.紫陽花~うつりぎ~【New】  作詞作曲 田野ユタカ

4.snow flake           作詞作曲 田野ユタカ

5.桜ふれいく              作詞作曲 田野ユタカ

6.Dear Mermaid           作詞作曲 田野ユタカ

7.ブルース色の雨に濡れてる     作詞作曲 田野ユタカ

 

  二部  

1.鏡の中の東京タワー      作詞作曲 田野ユタカ

2.Lady Fun-Fun         作詞作曲 田野ユタカ

3.摩天楼ホテル         作詞作曲 田野ユタカ

4.月の灯かり             作詞作曲 田野ユタカ

5.nude             作詞作曲 田野ユタカ

  6.芝居仕掛            作詞作曲 田野ユタカ

7.オブラート          作詞作曲 田野ユタカ

   
 8.1009           作詞作曲 田野ユタカ



  Enc.

    1.だけど瞳は空を見ている
    作詞作曲 田野ユタカ


    2.
Lady Fun-Fun~長廻しVer~  作詞作曲 田野ユタカ



   原点は高校二年の時の文化祭でのホールステージだったという。
  オリジナルのみで構成し、先輩方にアレンジをお願いしたBandスタイル。
  そこから目覚め、学生時代は所謂文化祭で目立つ奴ではあったが、そんな人は当時沢山いたとも言う。

  卒業し、就職し、長い研修期間に現場仕事をしていた頃、
  学生時代の伝手を辿って女子大の学園祭への出演オファーを頂戴した。
  Band全盛の時代でもあったから洋ものをコピーし、見た目も真似た派手な共演者達。
  その余韻の冷めやらぬステージの後に立ち、ギター1本でバラードを歌うとガラリと空気が変わった。
  自分の後に出たビジュアル系Bandのボーカルが「出難いなぁ」とボヤキながらウインクしていた。

  「俺のやりたいことってこれかな?」と、田野ユタカは社会人になってからようやく覚醒したらしい。

 それから46年??、
  アコースティックギターを弾いて各地のライブステージに出演し、
  300以上のオリジナル曲を作り、アルバムを4作リリースし、
  歌う事の歩みを止めることはなかった。同時にサラリーマンであることも辞めなかった。
  実績を上げて部下を守り、上司を説得し、一流企業の基幹職から最後は子会社役員を勇退するまで。

   そんな男が2026年夏、バンド活動としての一つの最終地点に選んだのは六本木バードランド
  しゃれた老舗のライブハウスである。

  今夜、バードランドは満席だ。全国から男女がこの夜のために集結してくれた。
  オーストラリアや、アメリカからは田野の孫たちまで来ていたようだ。
  女性ファンの人たち、音楽仲間たち、田野が楽曲を提供した演歌歌手、出演したFM番組のスタッフ、
  アルバムに参加してくれた女性歌手、音楽を通じてお世話になったみなさん、
  幼なじみ、高校、大学、社会人になってからの友人、ライブを通して知り合った多くの方たち、etc.。





  オープニングアクトはシンガーソングライターの、
  まつむらあきひろ(Vo,Gt,Cho,Per,Blues Harp) withモリヤミヤウチ(Sax)がつとめ、
  独特の音世界に染めた。まつむらは実は田野の甥。

   O.A.1.「かげぼうし」

   夏の日の暑さと、セミの声が聞こえるようなポエティックでシンプルなフォークソング。
  サックスのメロディラインが踊るように上っていく。


   O.A.2.「窓辺の花」

  懐かしい童話のようなショートストーリー。三拍子の歌声を、サックスがいろどる。


   田野ユタカ 一部

   1「Tokyo City Lights」      <1stアルバム『主のない部屋』より>

   いよいよ、田野ユタカ登場。
  1曲目に選んだのは、軽やかなメロディにのせて、恋の終わりを情感豊かに歌うナンバー。
  ♪真夜中の海岸通りを 渡る風に吹かれてた 二人黙ったままで 静かにただ朝を待つ~
  ビブラートのかかった歌声が余韻を残す。
  スラリとしたいつもの立ち姿で、アコースティックギターを抱える。
  でも頭に巻いたバンダナの長さが、今夜の特別感を表しているようだ。
  
「今日はいろんなところから駆けつけてくださってますけど。
   あとで少しずつお客さんいじっていこうかな(笑)」


  2「Kの夏」          <4thアルバム『音楽のチカラ』より>

  サックスとギターから始まるイントロ。
  好きな人と駆け抜けた夏を、明るくせつなく歌う。
  繰り返される♪君が好き…忘れないよ~のフレーズが印象的。
  まつむらとモリヤも、コーラスとサックスでこの2曲目までバックアップ。

  「お暑い中、もう梅雨が関東も明けるんじゃないかっていう感じですけども。
  ありがとうございます。今日はこれまでの4枚のアルバムに入ってる鉄板曲から最新曲迄、
  そして二部では、この歳でバンド背負うとは、もう無理だろうと思ってたんだけど。
  去年ベースの小川が、田野さんはまだバンド背負える。歌うべきだ。
  そんなことを言ってくれてね。バンドやるのは
楽しいねえ()
  健康上の問題もあるので、もしかしたら、最後になるのかもしれない。
  ぐらいの覚悟はして準備してきました。ライブ毎に新曲を入れるという、
  皆さまとのお約束もありますんで。ここらで新曲を・・・」


  3「紫陽花~うつりぎ~」       
  <新曲>

  きれいで優しいメロディだから、アコースティックギターの音が染みる。
  ♪あなたは紫陽花みたいね~ つぶやいた彼女の言葉の悲しい意味も、今ならわかる。
  君なりのシグナルだったと。


  「私が1988年頃に江古田マーキーってライブハウスに出てた頃、
  LIVEハウスのオーナーが旗日の昼の部を忘れて来なかった、ドアが開かなかった、
  ドアの外で車座になって生音でLIVEした伝説のドア外コンサートっていうのがあったんです。
  その時自分は、深野義和さん(ミュージシャン、プロデューサー)に出会い、
  色んな転機を迎えるに至ったんですけど、その伝説を目撃した人が今日、来てくれてる。
  嬉しいねえ。長くやってると、皆さんにも、色んな人生の事情を乗り越えて、
  来てもらえるじゃない?ありがとね。次は3番目に新しい曲」



  4「snow flake」         
 <新曲>

  今夜、初めてのマイナーコードの曲。
  ♪好きだったから 未来へ見送った朝 君は笑顔を見せて 涙をひとひらの雪に変えた~
  夢の中で見た雪の景色に似合うアンニュイな雰囲気のナンバー。

  
「今日は、全国からここ六本木までありがとうございます。
  前回4月に吉祥寺「曼荼羅」でライブした時の新曲で。
  桜がトンネルを作って、その中を川が流れていくような地元の風景が大好きで。
  桜の目線で物語を紡いだ曲を、今日またやって欲しいとのリクエストを戴いてます」



  5「桜ふれいく」          
<新曲>

  明るいのに、同時に寂しいギターのアルペジオが響く。
  田野のボーカルの特徴である、裏声がよく効いて染みてくる。
  桜の季節に、桜の木に必ず成長を見せにくる幼子を歌う。
  ♪もし僕が消えても 君は生きてね。辛い時には桜吹雪いた春を
   桜ふれいくを思い出しておくれ…。

  「この曲が2番目に新しい曲です。
  久しぶりの方に最新曲を3曲お届けできたので、あとは鉄板の曲を」



  6「Dear Mermaid」       
<1stアルバム『主のない部屋』より>

  低音のギターで、渚のマーメイドを恋に誘う。
  やはり哀感のあるボーカルがこの人らしい。
  ♪渚に遊ぶマーメイド 夏のせいだと言わせておくれ
  燃やし尽くしてしまえたら それで済むから~ ファンにはおなじみ、田野の夏歌。


  「4?年前に手術して退院するまで禁煙しました(笑)。
  でもリハビリを始めた頃って、まさかまたライブやれるようになるとは思わなかった。
  で、よせばいいのにバンドまで。バンド楽しいもん!
  またこの年でやれるってのは本当に幸せだと思います」



  7「ブルース色の雨に濡れてる」 
 <3rdアルバム『St.Silence』より>

  ゆったりとしたカッティングギターに、まつむらもブルースハープで参加。
  ブルース色とはいえ、メロディは軽やかで。
  ♪どうしようもない二人に 雨が降り注ぐ~ 歌声が、よく伸びる。


   「やっぱり、田野はバラードだと思う。
  ロックもブルースもやるし、応援ソングもやるけど、絶対、バラードなんだろうな」

   少し強い口調でいう。今夜のセットリストもバラードが多い。
  なぜ、せつないラブソングを歌うのだろう? 

   「いちばん、表現したかったことじゃないかな。好きだった子に対する、後悔とか懺悔とか(笑)。
  伝えきれなかったメッセージを、もうその人に届かないから、歌うんだろう。
  命、果てるまでみたいな感じかな。そう自覚したのは40代だから、60代のこの年になると、
  もう歌い続けるしかないんだろうな」

  あきらめない男にも、かつて手放してしまった愛があるようだ。
  それは、いつまでも彼の中に鮮やかに居つづけて、たくさんの泣かせるバラードに変わっていった。
  その想いに、客席の男たちはちょっと照れながらもシンパシーを抱くのか。
  女性たちは、せつないラブストーリーにわが身を重ねるのだろうか。

  「自分が気持ちいい、だけだと自己満足でしょう。ステージで歌ってて、共鳴する瞬間ってあってさ。
  自分の気持ちの高揚と、お客さんの高揚がリンクしてる、肌感覚のときがあるんだよね。
  そういうときは、今でも涙が出るくらい嬉しいね」
 


  二部

  1「鏡の中の東京タワー」     <2ndアルバム『飛行灯』より>

  いきなり、田野がアコースティックギターを弾きながら、歌がせつせつと始まる。
  君の部屋にある鏡は、東京タワーと2人の恋を映し出してきた。
  月日は流れ、異国へ旅立つという彼女。
  ♪
鏡の中の東京タワー、今日は僕らを見つめ返してる~
  人気のナンバーは、色っぽい歌詞でドキリとさせて、
  物語性でグッと引きこむ。ひときわ大きな拍手が起きた。
  間奏でステージ背後の窓のカーテンが開いて、ビル群の夜景が見えるのだが…
  「麻布台ヒルズができちゃって、前は見えてた東京タワーに被ってしまいました。
  東京タワーが出てきたら、すごいいい演出だったのにね(笑)。


  さ、では、すごいバンドメンバーが集結してくれましたよ。

  キーボード井上美緒子ぉ~! ドラムスはおなじみ、今成秀樹ぃ~!
  オンベースおなじみ、小川清邦!きょん小川~!
  そしてギターは小野寺紀文~! このメンバーでお届けします。よろしくう」



  2「Lady Fun-Fun」      
<3rdアルバム『St.Silence』より>

  バンドの4人が登場。
  エレキギターのブワ~ンとディストーションの効いたイントロで引きつけ、
  きれいなドラムのビートが高鳴り、頼れる低音のベースでバンドを導き、
  キーボードが流麗に奏でる。
  いきなりミディアムなロックンロールへと場面が変わった。
 
 抒情的なフォークを中心にしっとりと歌ってきた田野が、
  アコースティックギターをスタンドマイクに変えて、
  スラリとした体を揺らしながら、軽くシャウトする。
  ♪天国には早すぎるね~
  ほんとに楽しそう。拍手もバンドの音量に呼応して大きくなる。
 
 
「いいなこの曲は。
  有海さんいないの寂しいんだけど、いろいろ事情があるんだよ()
  俺はリスペクトしてるし感謝してます。
  しゃべってると長くなるから、続いて行っちゃおう」



  3「摩天楼ホテル」       
 <1stアルバム『主のない部屋』より>

  軽やかに走るエレキギターと、安定してうまいベースラインが、
  80
年代邦楽ロック風で、懐かしい。
  スネアを軽々と叩きながら、同時にコーラスを重ねるドラマー。
  キーボードも自在だ。
  繰り返されるチェック・インなら、午前零時♪キッスするなら綺麗でなきゃダメさ~
  田野ボーカルが、色っぽく想像力をかきたてる。客席からクラップも起きる。

 
4枚出してるアルバムの中から、今日はバランスよくやってますけども。
  これだけうまいバンドだと、バラード聴いてみたいよね」



  4「月の灯かり」       <4thアルバム『音楽のチカラ』より>

  キーボードのハイトーンのイントロが美しい。
  田野は高音は伸びやかに、裏声も使いながら、ゆったり歌い始める。
  
♪月の夜は恋しくて  狂ってしまいたいほど  貴方が好き~
  バンドによるバラードは、いっそう映像的なイメージを増幅させる。

  「シンセサイザーも自由自在??だね。
  井上さんは教本も出してるので、ぜひ勉強したい方は。
  いつの間にか、楽器を持ち替えている小野寺さんもギター講座の先生ですからね。
  彼が加入してくれたおかげで、うちのバンドの平均年齢、グッと下がった(笑)」


  5「nude」          <4thアルバム『音楽のチカラ』より>

  ハンドベルのようなキラキラ音から始まるイントロは、クリアなギター音も気持ちいい。
  ♪寄り添った二つの魂が 梳け合ってnudeになって行く~
  優しく情熱的に、ままならない恋を歌う。

  「レインボータウンFMの番組『久米つとむの風のでんわ』に、
  橘和希ちゃんと一緒に出させていただいた時、長い曲だったのに全部かけて戴いた。
  久米さんほんとにありがとうございました。


  今日は中村友美ちゃんが久し振り。4枚目のアルバムのコーラスで大活躍してくれました。
  静岡、長野、新潟、神戸、千葉、愛知、岐阜からも来て戴いた。全国からですね。
  オーストラリアからも、アメリカから俺の孫たちも来てくれた。
  そういった意味でワールドワイド(笑)に世界から、日本中から
  集まって戴けてる気がしますね。

  いよいよ終盤戦に突入します。オッケー?」



  6「芝居仕掛」          <2ndアルバム『飛行灯』より>

  ふたたびサックスも入って、ジャズ、ブギウギ、ミックスジャンルのにぎやかな曲。
  ♪迷い続けている心乱れてる  足元さえもうおぼつかないのに~
  スィングしながら歌うのが新鮮だ。



   7「オブラート」         <3rdアルバム『St.Silence』より>

  いっそうテンポの速い曲で、マイナーコードのロックンロールを、
  裏声で気持ちよさそうに歌う。
  ♪濡れてゆく 身体中にキスの雨が降る~
  ハイハットと、テナードラムが軽快に曲を進め、
  ギターの不協和音が、スリリングな味を出す。ワッと歓声があがった。

  
「過ぎてしまうとあっという間です。ライブ自体はこれが最後とは言いません。
  でもバンドでやれるかどうかはもうホントにギリギリでした。

  色んな事を我慢して長生きするよりも、ライブもやって、人と巡りあって、感動しあって、
  燃え尽きた方が自分らしいんじゃないかなと思って、今日を迎えたわけです。

  本当にみなさんに来ていただけて。
  一緒に年を重ねてきたから、年の近い方もいらっしゃる。
  小学生のお客さん、JCもJKも、Z世代も、あ、いるいる(笑)。
  長くやってると、そういう嬉しいこともいっぱいあるんだなって。


  働いてる時も、仕事も全力で、誠心誠意やらしてもらったんです。
  その時間が無くて苦しい中でも音楽を作り、ライブを続けて来たのが、
  今はよかったんだろうなと思ってます。
  この空間、この感動だけは誰にも渡したくないなって、今日、つくづく思いました。

  じゃ、最後に久しぶりの曲を聴いてください。
  航空会社の夏のキャンペーンソングをイメージして作った曲「1009」です。
  今日はどうもありがとうございました」


  8「1009~ワンオーオーナイン~」     <2ndアルバム『飛行灯』より>

  サックスとドラムが明るく響く、
  ウエストコーストテイストの爽やかなロックナンバー。
  ♪Ah- 過ぎてゆく夏の日に 彩りを添え
    Ah-
惜しみなく 愛し合う方が輝く~
  明るいメロディ、リズム、でもちょっと哀愁をたたえたボーカルが彼らしい。
  サックスとドラムで余韻を残した。


  「どうもありがとう!」口笛とアンコールの拍手。

  「アンコールでやる曲は、アルバムには入っていませんが。
  バンドの皆さん、お疲れでしょうが、もう一度お願いします。
  青春歌謡、あるんだね、俺たちの引き出しの中に。
  そんな時代を思い起こしながら、聴いてください」


  アンコール


  1「だけど瞳は空を見ている」


  昭和の青春歌謡みたいで、サックス、ドラム、マイナーメロのキーボードもキマってる。
  ♪青春は遠回り だけど瞳はあの頃のまま~
  バックコーラスを、キーボードとドラムス、女性と男性の混成で盛り上げる。

  「バンマス、リーダーは、ベースの小川清邦。彼が井上さん(Key)を、
  ドラムのやはり長い付き合いになる今成英樹さんが小野寺さん(Gt)に声をかけて、
  バンドもまとめてくれました。じゃ、最後によろしくお願いしまあす!」



  アンコール


  2「Lady Fun-FunReplay      <3rdアルバム『St.Silence』より>

  ローリングストーンズばりの、ひずんだギターでスタート。
  ここで華麗なピアノソロ、渋いベースソロ、絶妙なテクニックのドラミング、
  グイ~ンと聴かせるエレキのソロ、泣きのサックス。それぞれがソロパートで盛り上げる。
  ♪Bari-Bari Woman ちょっと待って 天国には早すぎるね~
  まつむらのバックボーカルも熱い。最後は軽快にロックンロールで歌い上げた。

  「どうもありがとう! ありがとうございました~」



   「バンドでのライブは4年ぶりだったけど、楽しかった。
   いつもはソロでのライブだろ。
   演奏してるあいだ、アイコンタクトでメンバーと気持ちが通い合うのって、
   すごい震えるようなことだし。音楽って、もともとそういうものだろう」

  バンドライブを終えたあと、これで一歩が進めたとホッとしているように見えた。 

  田野は、大学を卒業すると大手(自動車)メーカーに就職。
  そのあと、ライブハウスに出るようになり、会社が休みの土日には都内のステージに立った。


  「わかったのは、ちゃんとファンをつけて、呼べないとライブは成立しないんだなってこと。
  八ヶ岳や、軽井沢のペンションで飛び込みで歌って、お客さんを東京のライブに呼んだこともある()
  でもみんな、毎回は来れないから、ファン層は広く持っていないとね。
  だからいつも、新しい人に聴いてもらうことに対しては貪欲」

   最初に女の子たち数人が「押し活」をしてファンを広げてくれた。以来、半世紀近く、コツコツと、
  ライブハウスに 来てくれたお客様には声をかけ続けて、しっかりと次回のライブへ紡いできた。
  地方都市のキャンペーンソング、劇団の劇中歌、演歌歌手にも曲を提供するようになる。
  パリダカのチームのテーマソング。各地のラジオ局や、テレビ局への出演など、
  一件ずつ、出会いを重ねることで、音楽も仲間も広がっていった。


  「これでいいやって思ったら、つまらなくなる。お客さんも減っていくのは間違いなくてね。
  だから音楽の活動は手を抜けなかったし、会社員としての仕事も、絶対に手を抜かなかったよ。
  嫌いだったからね、ズルいヤツは()
  そんな自分を、家族は口を出さずに、見守っててくれた。
  地味だけど、食べていくためにちゃんと社会で働きながら、音楽やってこれたのは
  自分に合ってたな、良かったなって思う。この年になると救われるよね。

  それといい人に巡り合えた。いちばん大きかったのは、深野義和さん(ミュージシャン、プロデューサー)。
  若い頃から、大した実力もない頃から、いいもの持ってるぞって認めてくれて、褒めてくれて、
  ライブに来てくれて、CDも出してくれた。他の人に曲を提供する道をつけてくれたのもあの人だから」


  田野のライブには、毎回、違うファンが入れ替わりやってくる。
  ピアニストの若き女性、会社を経営し音楽を愛するシニア世代のご夫妻、実力ある演歌歌手たち、
  舞台女優、歌う姿を食い入るように見つめる社会人の若者。のちにグラミー賞を受賞したのエンジニア。
  毎回、続けてくる人もいれば、何年かぶりでふらりと姿を見せる人もいる。
  50年近くつづけてきて、今もライブをやればお客さんが来てくれるし、聴いてくれる。
  自分は、その程度の知名度で、十分だったなって思ってる。
  メジャーになってたら、すぐにつぶれてただろうからさ。


  結局、夢だったものってなんだったのかなって思うとさ、
  そうやって、音楽、追いかけてきた日々。
  その積み重ねた時間みたいのが全て、夢だったなって思うんだよね。
  ミュージシャンとして、わりといい音楽人生だったんじゃないかなって」


  ソロライブは、まだ止めないつもりだという。
  だから吉祥寺のライブハウス「曼荼羅」や、八ヶ岳高原で、
  魂をこめて歌う姿を、見ることはできるのかもしれない。

  「バンドでライブやって、いまは燃え尽き症候群。
  年内に、なんとか1回ぐらいソロライブをと思ってるけど、あんまり先のことはわからない。
  もう60過ぎてからは、心臓手術してからは、毎回、葛藤だよ。でもライブがないと、すぐに年取って、
  寿命も縮めてさ()。期待してくれる人がいるうちは、できるだけ応えたいなって思う」


   ファンは、音楽や、バラードのファンだけではないだろう。
  サラリーマンをやりながら、地道に歌いつづけてきて、
  いまだ夢を追いかける彼の生き方そのものに、興味を抱いたり、勇気をもらったり、
  そういう人たちがたくさんいると思う。

  一歩前へと生きることを、長い間、コツコツとつづけているすべての人の姿と重なるから。
  それが、途絶える事無く歌いつづけている田野ユタカという物語だ。

   バードランドの外へ出ると、今度は六本木の夜景の向こうに、東京タワーが大きく見えた。
  あきらめない男は、いつまで歌うことをやめないでいてくれるかな、と問うと、
  ほほ笑むようにタワーの赤がきらめいた。

 



                         by まゆみん